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ワンランク上のプライバシーを実現したエレベーターを備えるラグジュアリーマンション

エレベーターでの気まずい思いや混雑といった居心地の悪さを感じさせないため、自宅に直接アクセスできる専用エレベーターを備えた物件が増えている。

by Beckie Strum 2019920

マンハッタンにある443グリニッチ・ストリートのエレベーターは住宅に直結している。PHOTO: ADRIAN GAUT、 COURTESY CETRARUDDY

音声コントロール機能を搭載したキッチン家電からホームシアター、コンシェルジュの常駐サービスまで、より充実した設備やサービスを追求する競争は、「エレベーター内の居心地の悪さ」という、マンション居住者の日ごろの不満まで解消しようとしている。

芸能人や各界の著名人は、エレベーターでの移動となれば、それが50階分でも、あるいはたった2階分であっても、見知らぬ他人とクローゼットほどの狭い空間を共有することを嫌がるかもしれない。そんな彼らの要望に熱心に応えようとする高級マンションのディベロッパーや建築家が、エレベーターの新たな次元の展開を試みている。ポルシェに乗ったままペントハウスまで直行できる車専用のエレベーターから、他のフロアには停まらないノンストップ・テクノロジーまで、超富裕層を対象にプライバシーに配慮したエレベーターを備える超高級マンションが増えている。

オリバーズ・リアルティ・グループのマネージング・パートナーであり、ディベロッパーのデヴィッド・ワイン氏はこう語る。「自分のマンションに帰ってくるというのは、喜ばしいことでなくてはなりません。自宅玄関の延長線上にエレベーターがあると感じられるようにすることは、ラグジュアリーな生活体験にとって非常に重要です」。

このため、オリバーズ・リアルティ・グループがRALカンパニーズと共同開発を行っている米ニューヨーク市ブルックリンのクウェイ・タワーでは、全126戸のうちイースト川に面する約55戸に直通エレベーターのサービスを提供している。同マンションの各戸の価格は、170万ドル(約1億8350万円)から始まり、上はブルックリンの販売価格記録を更新した(2戸の)コンボ・ユニットの2000万ドルまである。

ニューヨークからドバイまで、世界各地で大きなブームを巻き起こしている超高級タワーマンションにとって、より高速で効率的なエレベーターシステムは絶対に欠かせない条件だ。シカゴに拠点を置くセンター・フォー・トール・ビルディングス・アンド・アーバン・ハビタットのデータによると、マンハッタンで最高層を誇るコンドミニアムのエレベーターの速度は、たった数年の間に、超高層の432パークアヴェニューの毎秒16フィート(約4.9メートル)から、高さ1550フィート(約470メートル)を誇るセントラルパーク・タワーの毎秒約33フィート(約10メートル)にまで、2倍近い高速化が図られたという(参考までに、エンパイア・ステート・ビルディングで毎日多数の観光客を最上階まで運んでいるエレベーターの速度は毎秒16フィートである)。

このような革新的技術のおかげで、米フロリダ州サイニー・アイルズ・ビーチにある60階建てのポルシェ・デザイン・タワーの居住者は、エレベーターで他人と乗り合わせることが全くない。ここのコンドミニアムの所有者は車に乗ったままエレベーターに乗り、自宅脇のガレージまでほんの数秒で移動することができるので、他人と世間話をする必要もない。

ドバイの新しい大規模プロジェクトであるアイコン・シティは、2021年までにリバーフロントを一望する豪華な住戸の提供を計画しているが、ここでも30階建ての豪華なタワーマンションで同様の車専用のエレベーターシステムの設置が進められている。

一方、ジェンガ・タワーとして知られる、米ニューヨーク市マンハッタン区トライベッカ地区の56レオナードストリートの居住者は、同じフロアの住人のためにエレベーターのドアを押さえてあげる必要はない。同ビルのスポークスウーマンによると、慌ただしく人が行き交うオフィスビルに採用されることが多いデスティネーション・ディスパッチシステムによって、エレベーターに乗る前に7基あるエレベーターの1つに乗客が割り振られるので、より効率的かつプライバシー確保に優れたサービスを提供しているという。

富裕層のマンション所有者は、共用エレベーターにつきまとう不愉快な場面をなんとか減らせないかと長い間腐心してきた。2013年にザ・リアル・ディールが入手した賃貸契約によると、米ニューヨーク市の最高級マンションの一つである15セントラルパーク・ウェストでは、大きなスーツケースや、自転車、スケートボードなどを持ち運ぶ居住者全員を特定のエレベーターに振り分けているという。

速くて静かなエレベーターに乗りたいというニーズは決して新しいものではないが、プライバシーを第一に考える人たちにとっては、10年前より現在の方がずっと多くの選択肢が用意されている。不動産情報サイト、ストリートイージーのデータによると、米ニューヨーク市では専用エレベーター付きの販売住宅の数が2010年の608戸から2018年の1050戸へと2倍近くに増えているという。

マンハッタンにある443グリニッチ・ストリートのエレベーターは住宅に直結している。PHOTO: ADRIAN GAUT、 COURTESY CETRARUDDY

建築家、ジョン・セトラ氏は「エレベーターの中では、結局のところ待つしかないのです。あまり外交的でない人は、とても居心地の悪い思いをするかもしれません。建築家として、この課題に頭を悩ませています」という。同氏の建築事務所セトラ・ラディーは、ワン・マディソンやウォーカー・タワーを含むマンハッタンの超高級コンドミニアムの設計を数多く手掛けている。

セトラ氏によると、エレベーターの居心地の悪さを少しでも解消するため、デザイナーたちは柔らかな照明や温かみのある仕上げを採り入れ、エレベーターホールに冷温風を送風する通気口を設置してきたが、超高級マンションの一部はそのさらに先を行っているという。

マンハッタンにあるトライベッカ地区の工場を改装したラグジュアリーなコンドミニアム、443グリニッチ・ストリートは、ジャスティン・ティンバーレイク、ジェニファー・ローレンス、レベル・ウィルソンなどが物件を購入したことから、セレブリティのメッカとして知られている。ここの住人は、全53戸に直通するノンストップ・エレベーターを安心して使用できるのだ。

この建物にあるコンドミニアムの改装を手掛けたセトラ・ラディーのセトラ氏によると、住人の大部分は、ほかの5戸の居住者とエレベーター1基を共有する状況にあるが、100戸あたり1基を設置するという以前の通例と比較すると大きな進歩だという。443グリニッチ・ストリートが誇る1エレベーター当たり住戸数の少なさが、パパラッチの被害に悩む層にとって、この物件をさらに魅力的にしている理由の一つである。

「この物件の魅力の一つは、独占的あるいは非常に限定的にエレベーターを使える点にあります。何よりも安全性を重視するならば、車をガレージに入れて、自宅直通のエレベーターを使うことで誰に見られることもなく、または歩道を一切使うことなく自宅に戻ることができます」とセトラ氏は言う。