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光を“詩的”に操る、木村浩一の建築

コンクリートと自然光の絶妙なバランスで 厳かな空間を作りあげる建築家の哲学に迫る。

by Rie Noguchi 2019102

静寂の家と対峙して一望する。「スフィンクスのよう」と形容する人もいるというが確かにうなずける。PHOTO: NORIHITO YAMAUCHI

コンクリートと自然光の光で構成された屋内には、教会のような荘厳な雰囲気が漂う。PHOTO: NORIHITO YAMAUCHI

こちらは写真家のアトリエ兼スタジオとして設計された別プロジェクト「呼応する空間」。PHOTO: NORIHITO YAMAUCHI

木村浩一氏。PHOTO: NORIHITO YAMAUCHI

コンクリートに覆われた重厚感のなかで、細部まで計算された自然光がリビングに差し込む。
まるで教会や寺院の中にいるような厳かな気持ちになる空間。
そんな住宅を手がけるのは建築家の木村浩一氏だ。
エッジの効いたコンクリートの表現と光の制御で成り立つ建築は、
「柔らさ」「静けさ」など空間の印象をまるで魔法のように一変させる。

美しい直線を楽しむ「静寂の家」

滋賀県北部のとある駅から、幹線道路沿いに車を10分ほど走らせると、住宅もまばらになり、緑の田園風景が広がりを見せてくる。そんな住宅と田畑の間に悠然と建つのが「静寂の家」だ。幹線道路から見ると、コンクリート打ち放しの壁がそびえ立つ。しかし一歩敷地内に入ると、一気に視界が開け、左右対称にデザインされた建物の全貌が姿を見せる。

この住宅を手がけたのは、1991年にフォルム・木村浩一建築研究所を立ち上げた建築家・木村浩一氏。滋賀県生まれで現在も滋賀に住みながらシンプルで重厚感のある建築を数多く手がけている。そんな木村氏の建築で最も新しいプロジェクトが、2019年に1月に完成したこの「静寂の家」なのである。

安藤忠雄へのリスペクト

各所に設計されたスリットから屋内に自然光が注ぎ込む。PHOTO: NORIHITO YAMAUCHI

コンクリートの打ち放し作品というと、世界的な建築家である安藤忠雄の作品を思い浮かべるかもしれない。木村氏自身も、安藤をリスペクトしており「安藤建築の魅力は、パンテオンなどのダイナミックな西洋建築的要素と、侘び寂び、余白など日本的なものの考え方や精神性の双方を表現している点で、そこが海外でも評価されているんだと思います。私は安藤建築の美意識をリスペクトしつつ、私なりの視点で空間を構成しています」と話す。実際、「静寂の家」を覆うコンクリート打ち放しの壁も、安藤建築の特徴に通じる意匠といえるだろう。「この壁は、西欧の人にとっては、日本の龍安寺などの石庭に通じる抽象性の美意識=禅(ZEN)として魅力的に映るようです」。

敷地内には、施主が営むコンクリート工場と伝統的な日本家屋が隣接する。広大な敷地のため、当初は建物を分棟させるデザイン案もあったというが、結果的には平屋の建築となった。「やや煩雑な印象を与えるこの環境では、表現として“強度のある建築”がふさわしいと考え、コンクリート造のモニュメンタルなデザインを提案しました。コンクリートのボックスを積み上げ、左右対称を特徴とするこの外観は、スフィンクスのようだと表現する人もいます」

教会のような佇まい

建物の中に入ってまず圧倒されるのが、天井の高さだ。エントランスからリビングに繋がる扉は天井まで開閉が可能で、直線の美しさが際立つサイドのガラスからは光が差し込む。まるで教会のような佇まいだ。リビングに入ると、ここでも計算され尽くした美しい自然光が注ぎ込み、周囲からの視線を遮りながらも、外観からは想像できない、視覚的な広がりのある空間を内包している。

「ダイナミックな空間の中で、さまざまな光が相互に関わり素材感を際立たせることで、コンクリートに情感を与えています。また天井高の変化や床に高低差をつけることで、ひとつながりの空間内に異なるスぺースや機能を共存させて、空間の奥行きや広がりを作り出しています。」と木村氏は説明する。

木村氏は、デザイン性を優先するよりもクライアントである居住者の暮らしをまずは大事にするべきであると語る。確かに木村氏の建築には、生活感を極力抑えながらも、収納やプライバシーへの配慮など、生活者の使いやすさを重視した工夫が随所にみられる。

日本の「禅(ZEN)」という美意識

海外でも大きな注目を集める木村氏の建築。その理由を尋ねると「日本人の美意識に深く浸透する『禅(ZEN)』にあります。その美意識に通じる建築であることが海外での評価につながっているのかもしれません。“光と陰”のコントラストに潜む凛とした空気感は、禅に通じるように感じます。グローバルな現代だからこそ、(今後も)日本的美意識や感性を表現したデザインが大切になると思います」と答えた。

コンクリートと自然光の光で構成された屋内には、教会のような荘厳な雰囲気が漂う。PHOTO: NORIHITO YAMAUCHI

その木村氏が建築と出会ったのは、大学に在籍中のことだった。1970年代に安藤忠雄を含む「関西の3奇人」と呼ばれた建築家のひとり、渡辺豊和氏の授業を受けたのがきっかけだという。

「京都の山奥に建つ渡辺さん設計の住宅を訪れ、頭上にある半球のドームから光が落ちてくるのを見て、住宅でも大きな情感を呼び起こす空間が作れることにとても衝撃を受けたのを覚えています。それはロジックでは説明ができない感情的なもので、エモーショナルな空間でした。この体験が、私に建築の世界を開いてくれたと思っています」と振り返る。

美しい光を最大限に

そんな木村氏の建築の特徴は、やはり「光」の表現だ。建築家、ルイス・バラガンの光の表現の美しさに影響を受けているという。

こちらは写真家のアトリエ兼スタジオとして設計された別プロジェクト「呼応する空間」。PHOTO: NORIHITO YAMAUCHI

「バラガンは、『ガラスの乱用は、空間との対話、光と陰の効力を奪う』と語っています。世界遺産にも登録されている1948年竣工のバラガン自邸は、ひとつひとつの部屋が、それぞれ最もふさわしい“光”と“陰”で満たされるよう緻密に設計されています」

実際、木村氏が手がけた「静寂の家」、「呼応する空間」も、光は直接的ではなく、計算された開口部の形状を通して間接的に柔らかく入り込むよう設計されている。

「プランニングで大切にしていることは、ストーリー性のある動線で空間を構成することです。そして開口部の位置と大きさを入念に計画することで、豊かな視線を持ちながらも静かな空間を生み出して、日々の生活に潤いを与えてくれます」

木村氏が作り出す建築は、曲線ではなく、エッジが効いている。これも光の表現に繋がるという。

「エッジは光の切り返しがはっきりします。一方、アール=曲線の光は柔らかなグラデーションを作り出します。光の強弱を出すという意味で、私はエッジが好きですね。光を美しく表現して、五感に響く建築を常に目指しています」
 最後に自らのポリシーを次のように話してくれた。

「“光の視線”を繊細かつ詩的にコントロールすることで成り立っているのが私の作品です。光を表現し続け、情感に強く訴えかける建築を作ることで、きっと何かを突き動かすものが生み出されると信じています」。

木村氏のこの「光」への哲学が、神聖で美しい建築を可能にしているのだろう。