Interview

“ヒルズの未来形”が30年の時を経て始動する

東京の都市開発を最前線でリードしてきた森ビルが、“最大級の スケール”と誇る「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の全容とは。

by Maya Nago, Shogo Hagiwara 2019101

東京の新しい”顔”となる虎ノ門・麻布 台プロジェクト。

北側エントランスイメージ。

3つの超高層タワ ーがメインの建造物。

世界の都市間競争を勝ち抜く

1986年竣工のアークヒルズに始まり、六本木ヒルズ、表参道ヒルズ、虎ノ門ヒルズなど、国際都市・東京を代表するランドマークを次々と手がけ、時代を先駆ける先進的な都市開発を牽引してきた森ビル株式会社。その森ビルが、30年にわたる歳月を準備に費やし、満を持して始動する最新事業が「虎ノ門・麻布台プロジェクト」だ。

去る8月下旬に都内で開催された記者説明会で、辻慎吾・森ビル代表取締役社長が語ったように、「人・モノそして資金を惹きつける総合的な“磁力”をもつ都市のみが、熾烈を極めるグローバルな都市間競争を勝ち抜ける『都市の時代』」にあって、東京が進むべき道筋を先導する一大プロジェクトになると期待されている。

充実のフードマーケットも併設する。

この野心的な開発プロジェクトのコンセプトは、Modern Urban Village。「Green」と「Wellness」をキーワードに、圧倒的な緑を擁し、大都会でありながら、自然と調和した環境の中で、人間らしく生活できる次世代のコミュニティ形成を目指すという。

「テクノロジーの進歩で人の生き方までが変化するなか、都市の本質である人を中心に都市開発を考え直した結果、緑に包まれ人と人をつなぐ、広場のような街を意味するModern Urban Villageの考えにたどり着いた」と辻氏は説明する。

当プロジェクトのメインとなる建造物は、3つの超高層タワー。メインタワーは、高さ330メートルで、最上部に約90戸の住宅が入る。世界を代表する国際都市にふさわしい、グローバルスタンダードの「理想の住宅」がテーマで、居住者専用ラウンジ・スパのほか、各住戸専用のエレベーターホールも設置する予定だという。そのほかにも5つ星ラグジュアリーホテル、インターナショナルスクール、充実のフードコート、ギャラリー・ミュージアムなどの文化施設も併設したりと圧倒的なコンテンツを備える虎ノ門・麻布台プロジェクトは、今から4年後、2023年の開業を目指している。

大都会の真ん中に“広場”をデザインする

英国のデザイン界を牽引するトーマス・ヘザウィック氏。日本で初めてのプロジェクトとなった虎ノ門・麻布台プロジェクトについて聞いた。

北側エントランスイメージ。
イギリス出身の世界的デザイナー、トーマス・ヘザウィック氏。
これまでの都市開発では、自然と都市の関係が一つの重要なテーマでした。虎ノ門・麻布台プロジェクトでは、その2つをいかに融合させるのでしょうか。

自然は都市にとっての解毒剤であり、現代の硬質で弾力のない都市の正反対にある、ある種の「人間味」を空間に付加するものです。虎ノ門・麻布台プロジェクトのような大規模な都市開発は、ともすると単調で退屈、無機質になりがちですが、我々はそこに植物を持ち込むことで、柔らかさを実装したかった。大規模で美しく整備された「公園」ではなく、あくまでプライベートな、多くの発見があり変化に富んだ「広場」のような存在を目指しました。
世界には“グリーンウォッシング”と呼ばれるような、建前だけの緑化計画があることも事実ですが、今回はまったく違います。空気の浄化といった植物が都市において果たす「機能的側面」というより、むしろ人間の感情を動かすような、例えば風に吹かれて、枝葉が動くことで音が生まれるとか、季節の移ろいに応じて変化する庭のような空間を建物と融合させたいと考えたのです。

東京という都市の特性が、デザインのプロセスに与えた影響は何でしょう。

まず、「東京にしかない」と思えるような建築をデザインすることが前提としてありました。我々のスタジオは常に、その場所が抱える特定の課題に対して正しい解決策を提示することを目指しています。

他の都市では比較的、ここは住宅街、ここは高層ビル街、ここは中層ビル街というふうに区域によって建物の特性が異なりますが、東京はすべてが同じ場所に混在していて、矛盾と共存が同時に起きている。その意味で、東京は一貫性を持たないエキセントリックな都市と言えます。ですから我々は、このプロジェクトで計画されている超高層ビルのすぐ隣に、さまざまなテクスチャーや動き、そして驚きに満ちた、ヒューマンスケールな空間を創出したいと考えたのです。

また、耐震性と気候への対応というのも東京ならではの課題でした。どうすれば構造そのものが主張しすぎることなく、建物の美しさを維持したまま耐震性を持たせることができるのか。寒暖差も激しく雨も多いという東京の気候の中でも、人々がつながり合うような建築とはどのようなものか。それらを解決するデザインを考案するのに腐心しました。

日本でのプロジェクトだからこそ期待されていることはありますか。

今回のプロジェクトは我々にとって、日本が世界に誇るクラフツマンシップを実際に体験することができる貴重な機会です。プロジェクトによっては、デザインが技術に制約されてしまうということが少なくない。常に、技術力とデザインの折り合いをつけることが求められます。一方、日本は世界でも類を見ない高度な技術力を有しています。技術にデザインが制約されないという意味では、我々にとっても特別なプロジェクトです。

3つの超高層タワ ーがメインの建造物。
どんな体験が私たちを待ち受けているのでしょうか。

プロジェクトの中心は、あくまで親密なガーデンをつくることにあります。しかも、建築の周辺に庭があるというようなありきたりなアプローチではなく、その2つを完全に融合してしまおうというアイデアです。そこで我々は、トレリス(植物をつたわせるための生垣)としての建築を探求するという考えに至りました。

駐車場、ショップ、オフィスや住居としても機能して、かつ植物がつたうトレリスのような建築を目指すことで、建物とガーデン、さらには公共スペースという3つの境界線を曖昧にするという両義的なデザインが生まれました。そうすることで余白が生まれ、さまざまな体験を同じ空間で共有することができる。

また、建物に高低差をつけたことで、「ヒルズ(=丘)」というより「谷」のような雰囲気が生まれた点も気に入っています。世界を見渡しても、こんなにも特別でマジカルな場所はどこにもないと思います。

スタジオを設立されてちょうど25年が経ちましたが、今後、新たに取り組んでみたいデザインや課題はありますか。

これから挑戦してみたいのは、健康に関するプロジェクトでしょうか。あるいはインフラの設計や交通のデザインにも興味がありますし、日本での仕事も増やしたい。環境についても学びを深めたいですね。

我々の仕事には、常にコラボレーターがいます。クライアントもその一人。つまり、我々だけで物事が完結することは決してないのです。コラボレーターたちのヴィジョンに耳を澄まし、そのヴィジョンを限られた予算の中でさらに一歩先に導くために何ができるのか。さまざまな実験を通じてそのソリューションを探し出すことが、我々の使命です。

挑戦が大きいほど、社会的な重要性も増します。その意味で、建築のための素材開発にも非常に興味があります。建築の世界では、非人道的とも呼べる素材が多く使われていますが、環境問題がこれだけ深刻化する中、最終的には分解されるような真にサステイナブルな新素材の開発には、大きな可能性があると感じています。