Designer's Corner

山の別荘風のシックなインテリアを実現する方法

素朴なデザインから洗練されたアレンジまで、ハイエンドな山小屋の雰囲気を演出するためのヒント。

by Jennifer Tzeses 202035

「SHHアーキテクチャー・アンド・インテリア・デザイン」のアソシエイト・ディレクター、ガイ・マチソン氏がデザインした家では、主役に据えた風景をモダンで控えめな家具が引き立てている。PHOTO: SHH ARCHITECTURE AND INTERIOR DESIGN

「Mansion Global」では定期的に、世界各国で高級不動産物件を手掛けるトップデザイナーを招いて一つのトピックを深掘りしていく。今号ではシックな山の別荘の雰囲気を自宅に取り入れる方法を紹介しよう。

山の中の隠れ家といえば、簡単に禅のような瞑想的な気分が味わえ、自然を愛する自分の側面と向き合える場所であることが多い。しかしこの感覚を醸成するのに、別荘が高地にあったり、高い山の頂に囲まれていたりする必要はない。ちょっとした戦略的な工夫を採り入れることで、山の別荘と同じような穏やかで土の香りがする雰囲気を演出することができるのだ。

たとえ山の上に住んでいなくても、山岳にある別荘のような雰囲気を出すためのアドバイスをデザインのプロに聞いた。

自然に学ぶ

米モンタナ州ビッグスカイ、ユタ州パークシティ、ニューヨーク市に拠点をもつ「アルダー+ツイード」の共同創業者、ヘザー・ハンフリー氏はテクスチャーの重要性を強調する。

「上品な山小屋風の家にするには、自然な風合いのある素朴な色合いとコンテンポラリーな家具をバランスよく使うことです。こうすることで予想もしなかった美しいコンビネーションが生まれます。

壁や床の素材を選ぶ時は、家が建つ土地にインスピレーションを求めることが最も重要です。無垢材や合板でも、あるいは森をイメージしたデザインでも、壁の素材のテクスチャーと温かみはシンプルな空間に視覚的なインパクトを与えるのに使えます。

「アルダー+ツイード」の共同創立者、ヘザー・ハンフリー氏がデザインした米モンタナ州ビッグスカイのイエローストーン・クラブにあるモダンな山の家。すっきりとしたライン、鮮やかな色彩、オーガニックな雰囲気のあるモダンな家具、そして木の床と梁・暖炉周りのラフな仕上げの石壁が絶妙なバランスを生み出している。 PHOTO: ROCHELLE JAHDI

シックな山の別荘では、雄大な眺めを最大限に活用することが不可欠です。例えば、当社がデザインした米モンタナ州ビッグスカイの『イエローストーン・クラブ』にある邸宅では、周囲を取り囲む山脈を模した三角屋根と木の梁が並ぶ高い天井が特徴です。さらに壁一面を背の高いガラス窓にして、素晴らしい眺望を完璧にフレームの内に収めました。カラーパレットのインスピレーションもこの立地からきています。景色と張り合うのではなく、引き立てるように山の風景の一部である木々の鮮やかな緑と呼応する緑の同系色でベッドルームをまとめています。

アートワークやアクセサリーは素朴な感じでなくても構いません。当社のデザイナーは、オーガニックな雰囲気で、清潔感とコンテンポラリーなデザインが特徴のアクセサリーや、さりげなく自然をテーマにしたアート作品などを採り入れてきました。サイズは大きいものを選んで視覚的なインパクトも与えます」

周囲の環境からインスピレーションを得る

ロンドンの「SHHアーキテクチャー・アンド・インテリア・デザイン」で、アソシエイト・ディレクターを務めるガイ・マチソン氏はディテールに徹底的にこだわるという。

「一般的に山の住宅は、夏でも冬でもリラックスできる、忙しい日常を離れて過ごすための場所です。形はあくまでもシンプルにして、ラグジュアリーなディテールに細心の注意を払うのが良いと思います。

そしてリラックスできる快適な環境を作るにはぬくもりを感じさせる色合いが非常に重要です。

素材は周囲の環境に合わせて決めましょう。地元産の石材や木材は家を周囲の環境に溶け込ませるのに役立ちます。当社では地元の素材にテクスチャーを加えたりして、従来よりもずっと洗練された方法で採り入れています。

デザインの重要な要素はスケール感です。人工物と周りの風景とのバランスには特に注意を払わなければいけません。自然はどんな時にも必ず勝つので、競い合っても意味がありません。機能性はもちろん、日中は屋内が光で満ち溢れ、夜は居心地が良く、くつろいだ雰囲気が出るよう設計するべきです。

どっしりとした素材に金属や皮で繊細なはめ込み細工をすると、手間暇をかけて作り上げた感じが出るうえに、自然のもつ広大さを住空間に相応しいスケールで取り入れることができます」

絶妙なバランスを見つける

サンフランシスコとニューヨークを拠点とする「BCVアーキテクチャー+ インテリアーズ」の共同創立者兼代表のハンス・バルダウフ氏は、バランス感覚を大切にしているという。

「BCVアーキテクチャー + インテリアズ」の共同創業者兼代表のハンス・バルダウフ氏がデザインしたシュガーボウル・スキーリゾートのオーバーランド・トレイル・キャビンでは、家の至るところに使われている石材と木材によく合う、地元の自然素材が採り入れられている。
PHOTO: VANCE FOX

「当社が手掛ける山の家は、エレガンスを伴った無骨さと、ドラマティックなロケーションで暮らす良さとのバランスを考慮したデザインを施してあります。また壮麗で開放的でありながら居心地のよい環境を作るため、居住空間の多様性についても考え抜いています。

一般的に温かみのあるナチュラルな色合いは、上品な山の家の全体的なデザインを引き立ててくれる良い選択肢です。例えばシュガーボウル・スキーリゾート(米カリフォルニア州)の「オーバーランド・トレイル・キャビン」では、家の至るところに使われている石材や木材によく合う、地元の自然素材を取り入れています。

室内に明るい色味の木材を使うと家全体と調和するクリーンでモダンな雰囲気を作り出すことができます。

家の周りの環境を反映しつつ、くつろいだ雰囲気を演出するには、地元産の木材や石をよく使います。このような素材は組み合わせを工夫することによって、伝統的なアルプス地方のクラフトやデザインから引用しつつもモダンさを醸し出すことができます。例えば同じくシュガーボウル・スキーリゾートにある「ザ・クロウズ・ネスト・レジデンス」のクライアントは、チロル地方のシャレー(山小屋)が山の斜面にしっかり建っている様子からインスパイアを受けたと言います。ディテールは細部まで作り込み、ラインはあくまですっきりとしつつ、全体的にはモダンな雰囲気にという要望に応えて、アメリカツガ、ダクラスファー、ヒッコリー、床材、コンクリート、ガラス、スチールを組み合わせ、アルプス地方の伝統的なデザインにインスパイアされたコンテンポラリーな空間を提案しました。

さらにメインのリビングルームに屋外の雰囲気を取り入れるため、天井の高さを通常の2倍にし、部屋をさらに広く感じさせるガラス窓を使って、家が建つ場所と周りの土地のドラマティックな風景を存分に活かしました」

土地の魅力を最大限引き出す

米コロラド州スチームボート・スプリングスの「ルーマーデザイン+ リデザイン」でインテリアデザイナーを務めるケイティー・バーネット氏は、景色を活かすのがコツであると話す。

「ルーマーデザイン+リデザイン」のケイティ—・バーネット氏がデザインした米コロラド州スチームボート・スプリングスの「アルペン・マウンテン・ランチ&クラブ」にある家。モノクロのカラーパレットでまとめたインテリアのアクセントと家具が主張し過ぎることなく景色を引き立てている。PHOTO: COURTESY OF ALPINE MOUNTAIN RANCH & CLUB

「木材、石材、金属は山の家をデザインするうえでの基礎になります。様々な組み合わせ、色合い、割合、バリエーションを取り揃えることで、昔ながらの素朴な山小屋風から洒落た山の別荘まで様々なデザインを生み出すことができます。

床や天井に木材を使うと空間に温かみが出ます。石は壁にテクスチャーを与え、床に使えば家の外と中とをシームレスにつなぐことができます。自然の力を感じさせる、または少しインダストリアルな感じを与える洗練されたディテールを付け加えるには金属の素材がもってこいです。

すっきりしたデザインの場合、冷たさを感じさせないようにすることが大切です。そのためにはテクスチャーを何層にも重ねたり、温かいナチュラルな色味を使ったり、柔らかいテキスタイルを採り入れるなどして明るさと暗さのバランスを取ることが不可欠です。

このタイプの家の大きな特徴は窓です。周囲の風景を堪能し、また屋内にも採り入れるという、山をテーマにした建築にぴったりの窓を選びましょう。例えば当社がデザインした米コロラド州スチームボート・スプリングスの「アルペン・マウンテン・ランチ&クラブ」にある家のマスターベッドルームでは、特大の角窓を採用したおかげで、隣接する丘にある松の木の間に寝室が浮かんでいるような錯覚を楽しむことができます」