Interview

デザインの世界をパンクの精神で切り開く

インテリアデザイナーという肩書きの枠を超越して、日本国内のみならず世界を舞台に活躍するワンダーウォール代表・片山正通氏。

by Shogo Hagiwara 2020311

東京・青山にある「INTERSECT BY LEXUS」。PHOTO: KOZO TAKAYAMA

「ユニクロ」のニューヨーク5番街店。PHOTO: NACÁSA & PARTNERS INC.

ロンドンにオープンした「ジャパン・ハウス」。PHOTO: NACÁSA & PARTNERS INC.

インテリアデザイナーという肩書きの枠を超越して、日本国内のみならず世界を舞台に活躍するワンダーウォール代表・片山正通氏。キャリアの転換点となった原宿の伝説的ショップからレクサス、ユニクロといった日本発グローバルブランド、外務省主導による日本の文化発信施設「ジャパン・ハウス」まで多岐にわたるクリエイティブの源泉について聞いた。

片山正通氏。 PHOTO: KAZUMI KURIGAMI

プロフィール
片山正通

株式会社ワンダーウォール代表

1966年岡山県生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。国内外で数々のプロジェクトを手がけるインテリアデザイナー。近作に、外務省主導による海外拠点事業「JAPAN HOUSE LONDON」(ロンドン)、「ピエール・エルメ・パリ 青山」(東京・青山)などがある。2016年には、作品集「Wonderwall Case Studies」をドイツ・ゲシュタルテンから出版。

wonder-wall.com

マンション・グローバル:
国内外で様々なプロジェクトを手がけられていますが、各国のインテリアや建物をデザインするに あたって、常に心がけている点はありますか。
片山正通:

僕は、ミース・ファン・デル・ローエやル・コルビュジエといったミッドセンチュリー期のモダニズムを代表する建築家達が好きなんです。合理的であると同時に世界中のどこでも再現可能な“インターナショナルスタイル”であるというのが理由です。

もちろん、土地の持つコンテクストもデザインに与える影響は少なくありませんが、まず最初に必要なのはデザインするブランドや建物のオーナーと共に行う、概念の構築です。デザインはどんな土地でも、どんな障害も飛び越えて行けると信じています。

「レクサス」のブランディングスペース「INTERSECT BY LEXUS」や、外務省の日本文化発信施設「ジャパン・ハウス」(ロンドン)などでもその片山さんのアプローチは現れていると思います。

INTERSECT BY LEXUSは、東京・青山、ドバイ、ニューヨークと3都市で展開しています。レクサスという日本をベースにするインターナショナルなブランドのブランディングスペースという大きな使命がありました。最初に建てたのが青山で、“日本で日本を表現する”のは実に困難な作業でしたが、間の取り方など様々な日本的概念を今一度、僕の中で吸収・消化し、そこから本当に必要なもの以外は全てそぎ落とすことで、あの空間を作り上げることができました。その後のドバイ、ニューヨークでもデザインコンセプトの大枠は変わることなく、それぞれの地元コミュニティとの繋がりが欲しいと考え、若干の微調整をしているくらいです。

ロンドンにオープンした「ジャパン・ハウス」。 PHOTO: NACÁSA & PARTNERS INC.

どのようなプロジェクトであれ、僕はあくまでも“黒子”という意識で仕事をしています。ですので、ジャパン・ハウスのようなプロジェクトであれば、日本という国・文化のブランディングという大義のために、裏方の仕事をしているという意識が強くあります。そして最終的に少しでも、これまでのステレオタイプな日本とは違う、真の日本の良さがこの空間を訪れてくれた人たちに伝わってくれればいいなと思っています。

2020年は、ワンダーウォールを立ち上げて20年という節目になりますが、キャリアの転換点となったプロジェクトは?

東京・原宿で1998年にデザインした「NOWHERE」です(ファッションブランド「A BATHING APE」のショップ)。実質的なデビューであり転換点、転換点であり実質的なデビューといえる作品です。自分の中でデザインに対して真摯に向かいあうことができたという意味で、僕にとって大きなプロジェクトでした。

片山氏のキャリア転換点となった「NOWHERE」。 PHOTO: KOZO TAKAYAMA

当時は「ブティックってこう作るんだよね」とか「こう作らないと(商品が)売れないよね」というデザインのマニュアル的アプローチが世間に蔓延していたんです。そういう既成概念と格闘していたときに与えられたチャンスで、デザイナーとして振り切ることができました。

原宿エリアのカルチャーが席巻していて、その勢いの中でクライアントがそれまでになかった新しいショップデザインのチャレンジを受け入れてくれただけでなく、世間もまたそれをちゃんと受け止めてくれました。このショップの誕生を起点に、僕だけじゃなくて、業界全体の物販店におけるコンセプトについても「こんなことをやってもいいんだ」とか「これぐらいやらないと駄目なんだ」とか、いろんなことの潮目が大きく変わったんじゃないかと思います。空間のサイズ以上に存在が大きかったかなと、今でも思いますね。

人間にとって「本当に根源的なこと」に
デザイナーとして向きあっていきたいですね


先ほどモダニズム建築家の話がありましたが、ほかにインスピレーションの源となってきた人や物はありますか。

いろんな人や物に影響を受けるので、たくさんありますよ(笑)。モダニズム建築家の中ではさっき挙げたコルビュジエ、ミース以外にも、フィリップ・ジョンソンやオスカー・ニーマイヤーなど振り幅は割と広くて、名前を言い始めると100人ぐらいは出てきます。ミュージシャンにしても、映画監督にしても、デザイナーにしてもそうで、名前を挙げ始めればキリがない。しかしなかでも僕に大きなインパクトを与えたものがあるとすればそれはパンクロックです。「自由を叫んで、自由を手に入れる」みたいなパンクとの出会いは僕の中で大きな“事件”でした。

建築でいうと、時代は違いますがコルビュジエがやったことは、僕はパンク的だと思っています。今見るとどれもものすごく美しい建物群ですが、当時は相当衝撃的だったはずです。コルビュジエが実践したように新しい表現・考え方に時代が刷新される瞬間には大きな力が働いていると思います。

僕自身、デザイナーとして常に新たな可能性を探りたいし、自分に驚いていたいと思っています。そもそも自分が理解できない状況を楽しめるタイプなので、「何なんだ、これは」という発見と驚きに出会い続けたいんです。だからコルビュジエだけではなく、コルビュジエ的な思考ができる人には、ジャンルに関わらず大きな興味が湧きますね。

今後はカナダ・バンクーバーでの大型商業施設など新たなプロジェクトが控えていますが、片山さん、そしてワンダーウォールの今後は?

そうですね、今、幅広いジャンルでいろいろな可能性やチャンスをいただいています。バンクーバーは敷地⾯積11万2000 平⽅メートルにおよぶ巨⼤プロジェクトであり、今春完成予定の森ビルが進める⻁ノ⾨ヒルズのプロジェクトも、商業施設全体の環境デザインです。⼤きなボリュームの仕事が増えて、それはそれですごく面白いなと思いながらも、原点である「NOWHERE」のような、1対1で真摯に向きあうことが求められる規模のプロジェクトもやりたいですね。あと今とても興味があるのがレジデンスです。

左: バンクーバーで進行中の「Oakridge Vancouver」。 PHOTO: COURTESY OF WESTBANK
右: 「ユニクロ」のニューヨーク5番街店。 PHOTO: NACÁSA & PARTNERS INC.
ワンダーウォールの仕事としてレジデンスというのは新しい基軸ですね。
2018年にオープンしたニューヨークの「INTERSECT BY LEXUS」。PHOTO: NACÁSA & PARTNERS INC.

どちらかというと、これまで住宅には意図的に着手してこなかった経緯があります。そこに住まう人の趣味が前面に出れば良く、デザイナーが表に出てあれこれ指図するようなことではないとの考えがその背後にはあったからです。

しかし、そこに敢えて挑戦してみようと考えるようになったのは、「このソファのこの角度いいよね」みたいなインテリアのディテールだけじゃなくて、もっと根源的に、「住む」「生きる」「暮らす」というより大きなコンセプトに対して、インテリアデザイナーとして挑んでみたいと思うようになってきたからです。その意味では学校や病院のデザインもそうですが、人間にとって「本当に根源的なこと」に、デザイナーとして向きあっていきたいですね。